この映画はこんな人におすすめ
セックス&暴力有りのクライムムービー。
強烈なブラックユーモアの効いた作品です。
アート志向の強いサブカル好きにもおすすめ
『時計じかけのオレンジ』の作品情報(監督・キャスト・あらすじ)
日本の公開日 | 1972年4月29日 |
監督 | スタンリー・キューブリック |
脚本 | スタンリー・キューブリック |
キャスト | マルコム・マクドウェル パトリック・マギー ウォーレン・クラーク ジェームズ・マーカス マッジ・ライアン |
原作 | アンソニー・バージェンス |
音楽 | ウォルター・カーロス |
あらすじ
近未来のロンドン。 不良仲間とともに、ドラッグをやっては夜な夜な町で暴れるアレックス。 リーダーである彼は、仲間のことも暴力で押さえつけています。
ある晩、アレックスは押し入った家で老女を殺してしまいます。 逃げる際仲間に裏切られ、アレックスはひとり、警察につかまってしまいます。
刑務所に入って2年(刑期は14年) アレックスは模範囚として過ごしています。 しかし実は、聖書を読みながら良からぬ妄想にふけっています。全く反省などしていません。
そんなある日、アレックスは内務大臣が推し進めている「ルドヴィコ療法」の被験者に見事選ばれます。
それは悪人を善人に矯正して社会復帰させるというもので、2週間の実験を終えれば出所できるというのです。
「この映画のここが面白い!」(ネタバレなし)
1971年公開当時、過激な暴力や性的なシーンが問題視され、X指定=成人映画となりましたが、その後監督自ら30秒ほどのシーンを差し替えてR指定で公開されました。それでも映画は大ヒットし、アカデミー賞の作品賞・監督賞、ゴールデングローブ賞などにもノミネートされました。
しかしその後イギリスでは、暴行事件を起こした少年が『時計じかけのオレンジ』に影響を受けたと話し、世間から非難される事態に。
ついにスタンリー・キューブリック監督はイギリス国内でのこの映画の上映をやめることを決意しました。 監督本人や家族が脅迫される事態になったというのがその理由で、キューブリック監督が亡くなるまで、イギリスでは『時計じかけのオレンジ』を観ることはできませんでした。
ではなぜ、この映画は若者を中心に熱狂的に受け入れられていったのでしょうか。 その魅力の数々をご紹介します。
ナッドサット言葉
『時計じかけのオレンジ』ではこの「ナッドサット言葉」が多く使われています。
これは、言語学者でもある原作者のアンソニー・バージェスが考案した、ロシア語とロンドンのスラングを混ぜ合わせた言語です。
例えば、
ドルーグ → 仲間、友だち
デボチカ → 女の子
カッター → お金(小銭)
ホラーショー → 素晴らしい
インアウト → セックス
トルチョック → 殴る
アルトラ → 超暴力
などなど。
原作で多用されていたナッドサット言葉は、物語を難解にすると言われていましたが、キューブリック監督は絶妙な加減で効果的に使い、異様な若者たちの姿を際立たせることに成功しています。
個性的なルックスの“ドルーグ”
主人公アレックスとそのドルーグは、白の上下に黒い帽子、股間にはプロテクターをつけています。 プロテクターを服の内側ではなく外につけたのは、監督のアイディアだそうです。
リーダーのアレックスだけは、片方の目の下につけまつげをつけ、杖を持っていて、まるでピエロのような、チャップリンのような、滑稽な出で立ちをしています。
キューブリック監督は印象的な色使いをすることで知られていますが、今回は、 主人公サイドが白、 敵対するものは黒(またはくすんだダークな色)、 被害者や女性は赤・紫と色分けされています。
蛮行をくり返すアレックスたちの白は、冒頭に登場するミルクバーで彼らが飲む、ドラッグ入りのミルクに通じているかのようです。
カメラマン出身らしいこだわりの映像
2001年宇宙の旅』でもそうでしたが、この『時計じかけのオレンジ』でも奥行きのある、シンメトリーの構図が多用されています。
冒頭、アレックスのドアップから映画が始まり、ゆっくりとカメラが引いていくと、通路を中心に両側にバーの座席が配置され、全裸の女性の形をしたテーブルが目に入ってきます。
刑務所のシーンも、長い通路を奥から大臣が視察のために歩いてくるところや、並んだ囚人たちの顔を見ながら手前に向かって移動するなど、鋭角的な遠近感のある構図が印象的に使われています。
また、襲撃される作家の家やひとり暮らしの老女の部屋など、ちょっと変わったインテリアや前衛的な絵画などが置かれ、強烈な個性を放っています。
そこでも物や人はシンメトリーに配置され、妙な違和感を見る者に与えてくるのです。
それら室内のシーンでは、通常の映画の撮影とは異なり、キューブリック監督がドイツで買ってきたという照明だけで撮影が行われたそうです。
その大きく明るい光源ひとつで、明るすぎない夜の室内の雰囲気を見事に表現しています。
ネタバレ解説&考察
主演のマルコム・マクダウェルとは?
映画公開当時28歳だった主演のマルコム・マクダウェル。
1968年に主演した『Ifもしも…』(第22回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞)を観たキューブリック監督が、オーディションなしでオファーしたそうで、 「あなたがいなかったら(この映画は)撮らなかった」と言われたと、マクダウェルは語っています。
不良だけど知的。一躍悪のカリスマとなってしまったマクダウェルは、この映画の反響が大きすぎて、しばらく犯罪者の役ばかり持ち込まれたといいます。そのため、この役を嫌い、長い間この映画について語りませんでした。
しかし現在は、「素晴らしい役だった。この役をやれてラッキーだった」と振り返っています。
近所でのロケ撮影
『時計じかけのオレンジ』はほとんどがロケ撮影です。
実はキューブリック監督は、前作の『2001年宇宙の旅』で製作費を大幅にオーバーし、次回作にお金をかけられない状況に陥っていました。 それならば「低予算でもいい映画がつくれることを証明する」と、お金のかかるスタジオ撮影を避け、ほぼロケでこの映画を撮影したのです。
作品の中でアレックスの住む建物は、キューブリック監督の自宅から3分の場所だったと、主演のマルコム・マクダウェルは言っています。 アレックスが訪れるレコード店(実際はレストランだった)や、ドルーグたちと入った飲食店などは、実際に営業していたお店だったそうで、この映画で唯一のセットは、ミルクバーだけだったといわれています。
耳に残る音楽の使い方
キューブリック監督は、この映画でも有名なクラシック音楽を効果的に使っています。
「交響曲第9番」→言わずと知れた“第九”。ベートーヴェンを敬愛するアレックスの、なかでも最もお気に入りの曲。
この映画の肝(きも)ともいえる曲で、物語の重要なファクターとなっています。
「メアリー女王の葬送音楽」→冒頭で使われているこの曲は、そのアレンジによって不安感をあおるような、胸騒ぎをおぼえる出だしを演出しています。
映画の中ではその後何度か、主人公の心理的な状況を説明するようなシーンで流れます。
「泥棒かささぎ」序曲 → ロッシーニ作曲の歌劇。この曲をバックに、廃墟となった劇場の舞台で女性が襲われているという、衝撃的な使われ方をしました。
「ウィリアム・テル」序曲 → アレックスがナンパした女性二人と、自室でセックスするシーンで流れます。固定カメラで早送りされた映像は、エロチックというよりコミカルな雰囲気で、こうすることにより規制を免れようとした意図もあったようです。
「シェヘラザード」→アレックスが聖書を読みながら妄想する、半裸の侍女たちをはべらせるシーンで使われています。
「威風堂々」→イギリス人の愛国の象徴、エルガーの「威風堂々」。アレックスが「ルドヴィコ療法」の被験者に選ばれるシーン(第1番)と、その医療センターに連れて行かれるシーン(第4番)で、この有名な曲が流れるのはなんとも皮肉な感じがします。
「雨に唄えば」→クラシック音楽ではありませんが、ミュージカル映画の傑作として知られる同名映画の超有名曲。 作家夫婦を襲うシーンの現場で、ひと通り撮影を終えたあと、ありきたりの暴力描写に物足りなさを感じた監督が、アレックス役のマルコム・マクダウェルに「なにか踊れるか?」とたずね、彼がこの曲を即興で歌い踊ったことから、すぐに権利を取得し採用された一曲。傘に見立てた杖を片手に、この曲を歌いながら暴行するシーンはまさにトラウマものです。
ちなみにエンドロールでは、本家ジーン・ケリーのバージョンが使われています。
後年、マクダウェルがジーン・ケリーに会ったとき、あいさつしようと思っていたら踵を返して立ち去られてしまったそうです。
このように、本来の楽曲とはちがう意味を与えられた有名曲たち。このミスマッチ感覚を楽しめるかどうかが、この映画を好きになれるかなれないかの分かれ目になりそうです。
さまざまなキューブリック監督のこだわり
『時計じかけのオレンジ』は、暴力を描いた映画でありながら、あまり血が出てきません。キューブリック監督は、お決まりの表現を嫌う監督なのです。
また、完璧主義者の監督は、納得いくまで何テイクも重ねることで有名です。 (そのため、俳優陣やスタッフには嫌われてしまうようですが…) 例えば、警察につかまったアレックスに、保護司役のオーブリー・モリスがツバを吐きかけるシーン。10回以上テイクを重ね、ツバが出なくなってしまい、苦労したとか。
別の俳優が代わりをつとめ、さらに20テイク以上。ついに理想的な絵面が出来上がったそうです。
音楽についても、シンセサイザー奏者のウォルター・カルロス(現在はウェンディ・カルロス)に依頼し、前述の「メアリー女王の葬送音楽」など素晴らしい作品を仕上げたにも関わらず、あまり本篇で使われていなかったので、カルロスはガッカリしたそうです。(その後、映画のサントラ盤は無事ヒットしたようで、良かったです)
キューブリック監督は、同じジャンルの映画を二度と撮らないことでも有名です。
『2001年宇宙の旅』で、SF映画を極めてしまった彼は、次回作に『ナポレオン』を考えていましたが、それは予算の関係で実現しませんでした。
映画界の関心が、時代とともに若者の暴力や性の解放などに向いていることを察知し、一度は見送ったこの『時計じかけのオレンジ』の映画化を決め、権利を取得しました。
このあともキューブリック監督は、時代物、ホラー、戦争映画…とさまざまなジャンルの作品を撮っていきました。完璧主義者ゆえに、同じジャンルの作品はもう必要ないのかもしれませんね。
『時計じかけのオレンジ』のラスト 結末の意味
アンソニー・バージェス原作の小説は、新しい仲間と再び暴れていたアレックスが、昔の仲間ピートが家庭を持っていることを知り、自分の未来を考える…、というところまで描かれています。
当初アメリカで発表された時は、映画と同じラストでしたが、その後イギリスで発売されたときは、主人公が改心するラストが付け加えられていました。 これは、救いのないラストでは売れないとした大人の事情とも、原作者が自ら改変したともいわれています。
キューブリック監督はアメリカ版の小説しか読んでおらず、イギリス版の存在を知ったのは映画が出来上がったあとでした。 しかし、もし知っていたとしても、ラストシーンは変わらなかったでしょう。
最後に明るい希望をもたせてしまうと、キューブリック監督の描きたかった世界観とはちがったものになってしまうからです。社会への皮肉・風刺が彼の真骨頂なのですから。
ちなみに、今年(2019年)4月、バージェスの未完の原稿が発見されたそうです。 「A Clockwork Condition」という原題から、「時計じかけのオレンジ」の続編とみて間違いなさそうです。どんな内容なのか気になるところですね。
【映画の豆知識】
映画の豆知識について
・作家のボディガードとして登場するマッチョの男性、実はのちに『スター・ウォーズ』シリーズ(初期)でダース・ベイダーを演じたデヴィット・プラウズです。
・「ルドヴィコ療法」のためにアレックスが注射されるシーンは、女医を演じたマッジ・ライアンが実際に注射していたとのこと。練習のためにオレンジに注射する様子を、アレックス役マルコム・マクダウェルは不安そうに見つめていたそうです。
当映画が好きな方へのおすすめ
「トレインスポッティング」 ダニー・ボイル監督[R15指定]
「コックと泥棒、その妻と愛人」 ピーター・グリーナウェイ監督
「カッコーの巣の上で」 ミロス・フォアマン監督
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動画配信サイト | 時計じかけのオレンジ | 無料期間 |
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※配信情報は2019年6月時点のものです。現在の配信状況は各公式サイトをご確認ください。○=見放題視聴 △=課金視聴 ×=なし